物性談話会:


2007年
11月5日(月)
16:00
G217

久保健氏
(青山学院大学理工学部)

部分ライングラフ上の磁性

 電子スピンがそろう事による相互作用エネルギーの減少が、運動エネルギーの 増加よりも大きい時に金属強磁性が実現する。運動エネルギーの大きさはバンド 幅の程度であるから,幅の狭いバンドにフェルミ面があれば、強磁性が起こり易 い。この極限である分散の無い平坦なバンドを持ついくつかの模型では強磁性の 実現が厳密に証明され、数値的方法による研究も行われてきた。  最近我々は、強結合近似によるバンド構造が平坦なバンドを持つ一群の格子構 造を見出し、それらを「部分ライングラフ」と名づけた。これらはクラスターの 作る副格子とクラスターをつなぐ副格子から構成される。これらの構造では、平 坦バンドはバンド構造のエネルギー端に現われないため、強磁性について厳密に 議論する事は難しい。  我々は少数系の対角化を用いて、部分ライングラフ上のハバード模型を調べ た。これまで非常に小さい系しか調べていないが、部分強磁性や、フェリ磁性な ど面白い状態が実現しそうである。またこれらの構造上にスピンを置いて反強磁 性的に相互作用させると、クラスター内に強いフラストレーションが働くので、 新奇な基底状態や、磁化プラトーが起こることが予想される。  部分ライン格子に近い構造を持つ現実の物質は知られていないが、実現できれ ば、興味深い物性が期待できる。
6月21or22日

E404(予定)

堀田貴嗣氏
(原研先端基礎)

f電子系化合物の磁性

f電子状態を考察する上で基本となる考え方として、 LS結合描像とj-j結合描像が良く知られている。 前者では、複数のf電子がまずフント則に従って多重項を形成し、 スピン・軌道相互作用によって全角運動量Jで指定される状態に分裂した後、 Jに応じた結晶場ポテンシャルによって更に分裂する。 一方、j-j結合描像においては、1電子状態がまずスピン・軌道相互作用によって 全角運動量jで指定される状態に分裂し、然る後に、フント則や結晶場ポテンシャル に応じて多電子状態を形成する。
f電子系の磁性を考える上では、局在電子状態を取り扱い易いLS結合描像が 便利であり、それに基づいた理論が発展してきたが、電子間の多体相関効果 を取り込むには、1電子状態が明確に定義されるj-j結合描像の方が便利なこと が多い。しかし、これまでj-j結合描像に基づいてf電子系化合物の磁性や超伝導 を理解しようという積極的な試みは殆どなされてこなかったように思う。
そこで我々は、相対論的バンド計算結果に立脚し、j-j結合描像に基づいて、 f電子の遍歴項、結晶場項、クーロン相互作用項を含む微視的モデルを構築する ための一般的な処方せんを与え、そのモデルに基づいて、f電子系化合物、 特にアクチノイド化合物の磁性の理論研究を展開してきた。 そこには面白いことに、マンガン酸化物との類似性が隠されている。
本セミナーでは、そのようなマンガン酸化物とアクチノイド化合物の類似性に 着目しながら、j-j結合描像に基づくf電子系化合物の磁性の理論研究を紹介する とともに、複雑な現象の裏に潜む簡単な原理を見出す物性理論の醍醐味を伝えたい。
6月12日(火)
15:00
E404(予定)

甲元眞人氏
(東大物性研)

Quantum Hall effect, topological number and Jahn-Teller effect in graphene

Recently integer quantum Hall effect was reported for graphene. We consider the energy spectrum as a function of magnetic field on the honeycomb lattice. (the Hofstadter diagram) The quantized Hall conductivities are identified as the topological TKNN integers. In the absence of a magnetic field the Jahn-Teller effect, charge fractionalization, and incommensurate lattice modulation will be mentioned.
基本となる参考文献 
[1] D. J. Thouless, M. Kohmoto, P. Nightingale and M. den Nijs, Phys. Rev. Lett. 49 (1982) 405.
[2] Kohmoto, Ann. Phys. 160 (1985) 355.
2月1日(木)
15:00
E404(予定)

佐々真一氏
(東大院総合文化)

ガラス系における動的事象の揺らぎの発散

近年、「Soft-glassy system」とか「Jamming system」と呼ばれる 系に関して、非自明で新しく刺激的な知見が急速に蓄積されている。 そのうちのひとつが、「動的事象の揺らぎの発散」である。この現 象は、soft-glassy system の理解にとって重要なだけではない。 より一般的に、他の自然現象の中に類似の構造が潜んでいる可能性 がある。それを期待するならば、徹底してガラス系の詳細にこだわ るのと反対方向をむいて、普遍性が存在する可能性を暴いていくのも ひとつの道であろう。
この動機にもとづくとき、Ginzburg-Landau 戦略にならって、秩序変数 記述にもとづく平均場記述から揺らぎと空間結合の効果をとりいれてい くのが自然な研究方針に思える。しかしながら、ガラス系の場合、秩序変 数記述が前もってあるわけではない。
そこで、文献[1] において、ガラス転移を示すであろうコロイド多体系 を愚直に解析し、自然に定義される秩序変数によって、力学系のサドル接 続分岐がガラス転移の記述と関係することを見出した。
ついで、文献[2]において、サドル接続分岐のまわりにおける揺らぎの generic な振る舞いの記述を提案し、その解析を行った。第一近似的な 解析にもとづく結果ではあるが、各種発散指数は、数値実験や Mode Coupling Theory にもとづく計算と大きく食い違うものではないことが わかった。
本セミナーでは、非平衡系研究において、新しい普遍的性質を探索して きた歴史、および、新しいタイプの協同現象を探索してきた歴史を概観 することからはじめ、文献[1], [2] のエッセンスについて紹介したい。
参考文献 
[1] M. Iwata and S. Sasa, J. Stat. Mech, L10003, (2006);cond-mat/0605049.
[2] M. Iwata and S. Sasa, cond-mat/0609238.

2006年
7月27日(木)
16:00
E404

佐藤 昌利 氏
(物性研)

"Homotopy of quasi-particles in superconductors"

超伝導状態ギャップの構造、とくにノードの構造を位相幾何学を用いて考察する。 特に、時間不変性のある超伝導体のノード構造を議論する。 まず、時間対称性を保った超伝導状態の準粒子を記述する一般的なハミルトニアンを導出し、 単バンド超伝導体では、ラインノードのみが位相的に安定であることを示す。 更に、時間対称性に由来する実構造を用いて、新しい位相不変量を定義し、その 保存則からラインノードが安定であることを示す。 応用として、空間反転対称性のない超伝導体(CePt3Siなど)のラインノードの安定性 について議論する。
7月24日(月)
13:30
G418

野村 拓司 氏
(日本原子力開発機構/SPring8)

「遷移金属K吸収端における共鳴非弾性X線散乱 の理論とドープした銅酸化物への適用」

遷移金属K吸収端における共鳴非弾性X線散乱(RIXS) は運動量に依存した励起スペクトルが観測できる ことで最近注目されている[1]。 本セミナーでは、いくつかの遷移金属化合物に おける RIXS の具体例を説明したのち、私たち によって提案されているRIXSスペクトルの理論 計算方法[2]について説明する。 遷移金属K吸収端のRIXSでは、K殻に出来たホール をd電子が遮蔽するために励起されることが本質的 である。この励起過程の確率振幅がBorn 近似の範囲 でd電子の動的密度構造因子のd電子成分に関係付けら れることを示す。具体例としてドープした銅酸化物 の電子状態を動的平均場近似(DMFT)で記述しておき、 動的構造因子を乱雑位相近似(RPA)の範囲で計算する ことによりRIXSスペクトルを求め、実験で観測され ている波数依存性を説明する。
[1] Review として A. Kotani, Eur. Phys. J. B 47, 3 (2005).
[2] T. Nomura and J. Igarashi, Phys. Rev. B 71, 035110 (2005).
2月2日(木)
16:00
E404

藤本 聡 氏
(京都大学)

「2次元量子三角格子反強磁性体の低エネルギー相: 非摂動的繰り込み群によるアプローチ」

近年、2次元量子三角格子反強磁性体と見なされる新物質が発見されている。 一つは鹿野田らによって発見された有機化合物κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3、 そして、もう一つは中辻らによって発見されたNiGa2S4 である。これらの系は、 従来期待されていた120度構造の磁気秩序を実験の最低温度においても示さず、 Andersonが数十年前に予言したスピン液体相が実現している可能性が議論されている。[1]  後者の系では、十分低温度で、比熱が と振る舞い、また、スピン帯磁率が温度によらない定数値に近づく。 これは低温度で何らかのギャップレス励起が存在することを示唆している。

他方、2次元量子三角格子反強磁性体の絶対零度での量子相転移近傍における低エネルギーの振る舞いは、 理論的に十分に理解されているとはいえない現状であり、上述の実験事実を理解するには、この点での研究を進める必要がある。

三角格子上の量子反強磁性体の低エネルギーの振る舞いを記述するモデルとして、これまで、 非線形シグマ・モデルについての考察がなされている。[2] しかし、この非線形シグマ・モデルは3次元古典的三角格子反強磁性体に適用すると、低温相を正しく記述しないことが指摘されている。 これは主として、120度構造を表す秩序変数に対する拘束条件が強すぎ、スピンの縦揺らぎが完全に無視されているに起因する。 この拘束条件を緩めたLandau-Ginzburg-Wilson(LGW)型のモデルを考えることによって、正しい低温相の記述ができると考えられている。[3] 最近の数値計算と、LGWモデルに対する非摂動的繰り込み群の結果から、3次元古典モデルでは、 揺らぎによって誘起された弱い1次転移を示すことが示唆されている。[3]  このことは量子2次元モデルの絶対零度における量子相転移が(量子)揺らぎ誘起の1次転移であることを意味する。 これまで量子2次転移近傍の臨界的性質については多くの研究がなされているが、 揺らぎ誘起の量子1次転移近傍の有限温度の性質については未知の点が多い。 この問題に関して新たな知見を得るため、2次元量子LGWモデルを非摂動的繰り込み群の手法で考察し、 2次元量子三角格子反強磁性体の低温度の性質に関する新しい結果を得た。[4]  絶対零度で120度構造の相転移が起こるパラメーター領域において、繰り込み群方程式の数値的な解析から、 相転移温度(2次元系なので )以上の有限温度においても線形分散を持つギャップレス的なスピン波のようなモードが生じて、 物性を支配することが分かった。この擬似スピン波的な励起が、比熱の の振る舞い、有限定数値の帯磁率を導き、 上述の中辻らの実験による観測結果を部分的に説明している。
[参考文献]
[1] Y. Shimizu et al.,Phys. Rev. Lett.91,107001(2003); S. Nakatsuji et al., Science309, 11697 (2005).
[2] T. Dombre and N. Read, Phys. Rev. B39,6797 (1989);
P. Azaria et al., Phys. Rev. Lett.68,1762 (1992)
[3] H. Kawamura, J.Phys.Condensed Matter 10, 4707 (1998);B. Delamotte et al.,Phys. Rev. B69, 134413 (2004);M. Itakura, J. Phys. Soc. Jpn.72, 74.
[4] S. Fujimoto, cond-mat/0511215.
1月13日(金)
16:30
E404(変更の可能性あり)

御領 潤 氏
(青山学院大学)

"Vortex state in two-gap superconductors"

We discuss the vortex state in a superconductor in which two different superconducting gaps with s-wave pairing symmetry exist on two separated Fermi surfaces. The flux flow resistivity in this system is obtained. The result agrees well with anomalous field dependence of the flow resistivity recently observed in MgB2. We also discuss a possibility of the appearance of vortices with irrationally quantized flux in a thin film of two-gap superconductor. Reference; Jun Goryo and Hiroshi Matsukawa, JPSJ 74 (2005) 1394.

2005年
12月1日(金)
時間未定
場所未定

大川房義 氏
(北大理学研究科)

「銅酸化物における高温超伝導とその周辺」

何もドープされていない La$_2$CuO$_4$ 等の酸化物はモット絶縁体であり、 低温で局在電子(局在モーメント)の反強磁性を示す。これに2価金属の Sr や Ba をドープし電子数を変化させると金属・絶縁体転移あるいは 金属・絶縁体クロスオヴァーを起こし金属になり、高い臨界温度の超伝導を 示す。高温超伝導の機構については、1986 年の発見から約 20 年が経過した 現在も残念ながら研究者の大多数が合意している理論はない。 この最も大きな理由は、さまざまな異常が観測されているためである。 たとえば、臨界温度以上で擬ギャップが開く。臨界温度以上で開く 擬ギャップと臨界温度以下で開く超伝導ギャップとの関連が問題になっている。 また最近は Bi 系銅酸化物で、$a$ を CuO$_2$ 正方格子面の格子定数として、 $4a \times4a$ のいわゆるチェッカーボード構造と呼ばれる構造が 走査型トンネル顕微鏡 (scanning tunnelling microscope 略して STM) あるいは走査型トンネル分光 (scanning tunnelling spectroscopy 略してSTS) で観測されている。また、チェッカーボード構造が観測される相で、超伝導 ギャップが低温でいわゆる絶対零度 (zero-temperature) 擬ギャップと呼ばれる 微細構造を持つ場合がある、等々である。 いっぽう、発見直後の 1987 年春に 発表された理論によれば、観測される超交換相互作用の大きさを仮定し、 その超交換相互作用を引力として使い、 1963 年発表の Gutzwiller 理論が 予言するいわゆる Gutzwiller 準粒子の$d$ 波クーパー対凝縮機構で、 観測される高い臨界温度が再現できる。実験的には $d$ 波の対称性を持った 超伝導ギャップが開いていることは 確実であり、少なくとも $d$ 波との点に 関しては大多数の研究者が合意している。現時点からみれば、1987 年の 高温超伝導理論は今回の特別講義で紹介する近藤格子理論の一応用である。 近藤格子理論の枠組みで、上記の異常を説明を試みた最近の理論を紹介する。
11月18日(金)
16:30
G418

Michel Peyrard 氏
(Ecole Normale Sup\'erieure de Lyon, France)

"Nonlinear dynamics and statistical physics of DNA"

M.Peyrard 氏は DNA二重鎖の数理モデルをもとに、生物学的にも重要な 意味を持つDNA二重鎖の開列 の問題に取り組んでおられます。 物理的見地のもと、DNA 開列の開始メカニズムや転写開始位置の具体的 な DNAシーケンス が特別な意味を持つかどうかに関する研究結果など が聞けると思います。アブストラクトを参照ください(文責 中川)。
アブストラクト DNA is not only a molecule essential for biologists. It also raises fundamental questions for physicists. It is now clear that the "static" structure of biological molecules is not sufficient to determine their biological functions. In DNA local large-amplitude opening of base pairs are necessary for the transcription of the genetic code, involving highly nonlinear "dynamical phenomena", that we have investigated theoretically. In a first part we discuss the opening fluctuations of DNA, which can be described by a simple model of the molecule at the scale of a base pair. The statistical physics of the model provides data which can be used to calibrate the parameters and improve the model by comparison with experimental observations of DNA thermal denaturation. Moreover the dynamics of DNA in contact with a thermal bath illustrate the importance of nonlinear energy localisation. The biological relevance of these investigations is discussed, and particularly the ability of the model to detect transcription-start sites in DNA. In a second part we examine the opening/closing fluctuations of DNA hairpins using a very simple lattice model, in the spirit of some protein folding studies. Finally we briefly review recent applications of DNA which take advantage of its self assembly and make it appear as ``the silicon'' of biological physics owing to the various possibilities that it offers.
7月28日(木)
16:30
G418

福島孝治 氏
(東大院総合文化)

「スピングラス状態の壊れやすさについて」

ガラス的な挙動を示す系の平衡状態は,一般的に「こわれやすい」性質を持っ ていることが多い.例えば,温度等の環境のわずかな摂動に対して,ガラス的 な性質を残したまま,敏感にその平衡状態を大きく変えることがある.スピン グラス系もこの性質を持っていると予想されてきた.また,近年の奇妙なエー ジング現象を説明するためのシナリオとしても注目されている.理論的には, 摂動前後の平衡状態間の相関を調べることで,この「これやすさ」が特徴つけ られる思われるが,平均場理論でさえ多くのことはわかっていない.我々はス ピングラス系の標準的な模型であるエドワーズ・アンダーソン模型について, 繰り込まれた結合定数の摂動前後における相関をモンテカルロ法で評価するこ とによって,スピングラス状態のこれやすさを定量的に調べた.そのためのモ ンテカルロ技法と得られた結果について詳しく紹介したい.また,摂動の種類 に依らない普遍的なスケーリング則についても議論する予定である.
この研究は,佐々木氏(東北大工),高山氏(東大物性研),および吉野氏(阪大 理)との共同研究である.
6月15日

Prof. S. Lovesey
(Rutherford Appleton Laboratory, Chilton, Oxfordshire, UK)

中性子散乱とX線散乱 (先端科学トピックス)

Lovesey教授は、中性子散乱実験施設として名高い"ISIS"の 理論部門長を長年務めてこられました。現在、その横に 建設中の放射光施設"Diamond"の計画にも関与しておられます。 中性子散乱でどのような研究が可能か、放射光との関係は どうなのか、等についての話をしていただきます。日本では 東海村のJ-PARKの中性子施設の計画が進んでおり、その関係からも 興味深い話になると期待しています。
5月26日

Dr. Nic Shannon
(マックスプランク複雑系物理学研究所研究員 東京大学大学院新領域創成科学研究科 客員助教授)

The role of higher order exchange interactions in the two dimensional antiferromagnet La2CuO4

The properties of most magnetic insulators can be well understood in terms of Heisenberg interactions, which originate in the exchange of pairs of electrons. Higher order interactions between spins, corresponding to the exchange of three or more electrons, play an essential role in the magnetism of quantum solids such as HeIII. The Mott insulator La2CuO4, parent compound for a family of HTc superconductors, is also a good example of two dimensional quantum antiferromagnet. However many of its measured properties are at odds with the predictions of a simple Heisenberg model. In this seminar, I review theory and experiment for neutron scattering studies of magnetism in La2CuO4, with particular emphasis on the role of higher order exchange. In particular, I present new experimental and theoretical results for spin-polarized diffuse scattering which constitute the first direct Neutron scattering measurement of four spin cyclic exchange in a quasi-two dimensional oxide.
4月19日

佐久間 隆 氏

X線・中性子による固体電池材料

固体電解質中の構造および原子熱振動についての研究を中心に、現在開発の進 む燃料電池、 平成20年より稼動予定の茨城県中性子構造解析装置に関連した話題を 紹介する。
3月9日

横山 淳 氏

重い電子系URu$_2$Si$_2$の隠れた秩序変数

重い電子系URu$_2$Si$_2$は$T_{\rm o}=17.5\ {\rm K}$で相転移を示し、$T_{\rm c}=1.2\ {\rm K}$で超伝導転移する物質であるが、$T_{\rm o}$における相転移の秩序変数の問題は、 この物質の発見以来ほぼ20年にわたる研究にもかかわらず未解決であり、 重い電子系の物理の中心課題の一つと なっている。講演では最近の我々の実験結果について紹介し、 多極子秩序などこの相転移の秩序変数の可能性について議論する。
1月27日

阿部 純義 氏
(筑波大学)

複雑系科学からみた地震:Tsallis統計とネットワーク理論の応用

Tsallis統計と複雑ネットワークの理論の要点を簡単に 紹介し、これらの複雑系科学の立場から地震現象について 考察する。地震の時空的性質が、Tsallis統計とどのように 関わっているかを議論する。次に、地震データを時間発展する ランダムグラフに写像し、そのトポロジーを調べる。それらが、 small-worldかつscale-free ネットワークであることを 示す。最後に、余震のメカニズムとグラス・ダイナミックスとの 興味深い類似性を指摘する。

2004年
12月3日

守田 佳史 氏
(群馬大学工学部)

Some Data on the 2D Hubbard Model: emergence of (2+1)-dim. Dirac fermion due to strong quantum fluctuation?

我々は、2次元において、強い量子ゆらぎによって現われる普遍的な構造 を探す目的で、2次元Hubbard模型の数値的研究などをここ数年行なってきた。 今回のセミナーでは、2次元Hubbard模型の電荷圧縮率、とくにその運動量 依存性に関する厳密な数値データを中心に議論する。同時に、最近提案され ている2次元量子多体系におけるソリトン的な新しい準粒子描像の紹介、 および、その描像と我々の数値データとの関係も議論したい。 セミナーでは、2次元Hubbard模型に関するいくつかの基礎的背景、 および1次元量子系でのソリトン的準粒子描像など、今回の我々の研究と 関係する基礎的な内容も時間の許す限り交えて紹介したい。
10月28日

高橋 学 氏
(群馬大学工学部)

SDW CrにおけるK-吸収端X線磁気散乱

密度汎関数近似に基づく第一原理バンド計算を用いて、スピン密度波状態に あるクロムにおける Cr K-吸収端 X線磁気散乱スペクトルの計算を行なった。 スピン・軌道相互作用を考慮することで軌道モーメントがスピンモーメントに 比例して生じるようになる。しかし、計算で得られた軌道モーメントの大きさは 実質ゼロと言ってよいほど小さい。このことは、軌道モーメントが未だ実験観測 されていないことと矛盾しない。それにもかかわらず、 Cr K-吸収端 X線磁気散 乱スペクトルには 1s-4p共鳴過程による散乱強度のエンハンスメントが顕著にあ らわれるという結果が計算から得られた。この結果は Mannixら による実験スペ クトルとよく一致している。セミナーでは Cr K-吸収端 X線磁気散乱スペクトル の構造と電子状態との関係について議論する。
7月2日

西川 裕規 氏
(日本原子力研究所放射光科学研究センター)

共鳴過程を利用した分光の理論:現状と未来

五十嵐グループでなされてきた共鳴過程を利用した分光の理論について、 講演者が携わった研究とその周辺について述べる。そして今後この分野で必要 とされている理論について、五十嵐教授を交えてインフォーマルかつ対話的 に議論を行なう予定である。

6月23日

西原 美一 氏

PrBa2Cu3O7 の伝導特性

90Kの超伝導体YBa2Cu3O7と同じ構造のPr系は超伝導を示さない 物質として知られている。しかし、われわれの研究の結果では、この 系はYやその他の物質系とは異なり、作製条件により伝導特性が大 きく変化することが明らかとなっている。Pr系が超伝導を示す可能性 があるのか、われわれのこれまでの研究結果について紹介したい。

5 月 11 日

五十嵐 潤一 氏

共鳴X線散乱の理論

近年、第三世代放射光源の強い放射光を用いた共鳴X線散乱実験が盛んに行われ るようになった。電荷の状態を調べるのに適している手段で、中性子散乱が物質 の磁気的性質の研究に適してい点から、中性子散乱と相補的であると考えられ る。最近の実験の現状を簡単に紹介したあと、我々のグループの理論的解析を紹 介する。